ボツ原稿リサイクルの最終回です。
ちょっと長いのですが、お読みいただければ幸いです。
生きづらさの心理学①―モヤモヤとは何か
生きづらさの心理学②―物語はモヤモヤから始まる
生きづらさの心理学③―急性モヤモヤと慢性モヤモヤ
以下のように、第1章を書いては消して、気づけば1年間が過ぎたのでした。
それでは皆様、本年大変お世話になりました。良いお年をお迎えください。
人生はリメイクドラマ
モヤモヤ発生装置を見る
ここまで、生きづらさとは何かを追ってきました。
そして、慢性モヤモヤを生み出すモヤモヤ発生装置にまでたどり着きました。
ここが本丸です。忍者のように、さらに奥まで忍び込んでみましょう。
モヤモヤ発生装置。
まるでフワワワワ―と白い霧を吐き出す加湿器みたいな響きです。
だけど、実際のモヤモヤ発生装置は、もちろん加湿器とはちょっと違います
当たり前のことですが、心の中にあるものは心の外にある机やコップと違ってかたちをもちません(難しい言葉で言うならば「心に実体はない」)。
でも、私たちは事実モヤモヤしているわけですから、モヤモヤを生み出すなんらかのものが心の中に存在しているのも確かでしょう。
それじゃあ、モヤモヤ発生装置って具体的にはいったい何を指すのでしょうか?
実はモヤモヤ発生装置を特定することは、私の仕事にとって非常に重要です。
カウンセリングを進めていくうえで、クライエントのモヤモヤ発生装置がどんなものなのかをある程度把握しておくことは、これ以上なく役にたつことだからです。
だから、私のカウンセリングルームでは、カウンセリングを本格的に始める前に、モヤモヤ発生装置をある程度解明するための時間を作っています。
何をするのかというと、数回にわたって (大体1か月くらい)、クライエントさんのこれまでの人生を一緒に振り返るのです。
どういう家庭で生まれて、どういう人間関係の中で育ち、そしてここまでどうやって生きてきたのか。そういうそれぞれの方の歴史を、時間をかけてかなり詳しく伺います。
すると、不思議なことがわかります。
生きづらさを抱えた方々が、繰り返し繰り返し同じような辛い状況に陥ってきたことがわかるのです。
私たちカウンセラーは、この繰り返しからモヤモヤ発生装置を把握していきます。
Aさんが繰り返していること
私たちの人生で繰り返されていることをよく見てみると、モヤモヤ発生装置が垣間見える。
ここはこの本にとって、ものすごく大事な所です。
そこで、わかりやすく説明するために、具体例をあげてみます(とはいえ、守秘義務がありますので、いくつかの事例を組み合わせた架空の例です、念のため)。
30代女性のAさんは看護師でした。彼女がカウンセリングを訪れたのは、職場の上司である女医さんとうまくいかなくて、とてもモヤモヤしていたからでした。
その上司はとても神経質で、Aさんのやることなすことにいちいち反応し、文句をつけてくるとのことでした。
実際、上司の言動はちょっとやりすぎに思えましたから、私はひどい上司だなと思い、自分でも同じ状況に置かれたら、参ってしまうだろうなと思いました。
だけど、まだカウンセリングは最初の段階でしたから、結論を出すのは避け、慎重に話を聞いていきました。
Aさんの過去を振り返っていくと、興味深いことがわかりました。
実はAさんは、以前に勤めていた病院でも、同じように神経質な先輩看護師とうまくいかなくてモヤモヤしていました。
そのときも、その先輩看護師は「なんでまたこんな人と出会ってしまうんだ!」と思ってしまうようなひどい人でしたから、結局Aさんは今の職場に転職することになりました(そうやって、新しい神経質な上司に出会ったのです)。
さらに話をお聞きしていくと、Aさんが神経質な目上の女性との間で難しい関係に陥りやすいことがはっきりしてきました。
専門学校のときには指導者との間で、高校時代の部活では顧問の先生との間で、Aさんは苦しんでいました。
よくも毎回そんなひどい人と出会うものだなと思いますが、彼女は実際に出会ってしまいます。
まるでジョーカーだけを抜き続けるババ抜きをしているかのようです。
というか、彼女は誰がジョーカーなのかが直観的にわかっていて、そしてあえてそのジョーカーと深い関係になりにいっているようですらあったのです。
この繰り返される悲劇の原点には、母親がいました。
Aさんは幼いころから母親との関係に苦しんでいたのです。
母親はAさんが男の子と仲良くすることにひどく神経質でした。
まだ幼稚園生であったAさんが男の子と遊んでいる姿を見ると機嫌が悪くなりました。
そして、彼女が小学生になると日記を買い与えて、母親は夜な夜なそれを覗いて、何かあると遠回しに注意を与えていたのです。
もちろんAさんはそれが窮屈で窮屈で本当に嫌でした。
だけど、日記の場所を隠してしまうと、母親がひどく不安になっているのも知っていましたから、あえて見つけやすいところに日記を置いてあげていたのです。
そうやって、窮屈な関係は維持されていました。
これがAさんの人生で繰り返されていたことです。
こうして聞いてみると、Aさんのモヤモヤ発生装置がおぼろげながら見えてはきませんか?
神経質な女性との窮屈な関係。これが彼女を苦しめていました。
同じような物語が、Aさんの人生では繰り返されて、彼女を慢性的にモヤモヤさせていたのです。
そう、それはまるでリメイクドラマのようです。
人生はリメイクドラマ
カウンセリングルームでは、こういう話が満ち溢れています。
いや、それは普通の人でも、よくある話ではないでしょうか?
つまり、あなたの人生でも、同じような出来事、同じような人間関係が繰り返されてはいないでしょうか?
たとえば、これまでお付き合いをしたことのある恋人のことを思い返してみてください(甘酸っぱい気持ちになる人と、苦い気持ちになる人といそうですね)。
付き合っているうちに、大体同じような不満を持つようになり、同じように難しい関係になり、同じような別れ方を繰り返してはこなかったでしょうか?
同じように傷つき、同じように相手を傷つけてはいないでしょうか?
そう、恋愛関係には、心の癖や弱点が如実に現れますから、そこでは繰り返しが起こりやすい。
だから、リメイクドラマです。
繰り返し繰り返しドラマ化される原作ってありますよね(「花より男子」とか「白い巨塔」とか)
毎回、役者は違います。そのときどきで、違った人が登場人物になります。
あるいは、舞台設定まで違うことがあります(原作マンガは学園物だったのに、なぜか警察の話としてドラマ化されるみたいに)。
だけど、それらのドラマのあらすじは大体同じで、結末も基本的には同じです。
そうです、私たちの人生でも、同じ物語がかたちだけ変えて、何度も上演されているのです。
苦しい人間関係が相手役を変えながら何度もリメイクされます。嫌な出来事が舞台を変えて繰り返されます。
そうやって、私たちはいつも同じように傷つくことになります。
結末が同じだからです。
こうして、私たちは慢性的にモヤモヤし、「生きづらい」
と感じます。
心の中のモヤモヤ発生機は、加湿機みたいにプシューっとモヤモヤを吐き出すようなものではありません。
そうではなくて、モヤモヤ発生装置とは、繰り返しリメイクされる原作マンガのことでした。
原作がリメイクされる果てに、私たちはいつも同じように傷ついてしまう。そうやって慢性モヤモヤが発生し続ける。
二つの謎を解き明かそう
生きづらさは、同じような辛い物語が、望んでもいないのにリメイクされてしまうことによって生じる。
だから、私たちは傷つき続けていて、慢性的にモヤモヤしている。
これがこの章で、皆さんにお伝えしたかったことです。
いかがでしょうか?
自分を苦しめるような物語を何度もリメイクしているだなんて、心ってほんとうに不思議です(自滅しているようなものです)。
だけど、逆に言うと、ここから生きづらい自分を変えるための道筋も見えてきます。
そう、いつもの原作マンガをリメイクすることをやめられたなら、生きづらさを変化させることができそうだからです。
だけど、そのためには、解かなくてはいけない謎があります。
しかも、二つあります。
なぜ私たちは同じ物語を繰り返してしまうのか。
これが一つ目の謎です。
モヤモヤ発生装置は、どのようにして私たちの人生を原作マンガのリメイク版にしてしまうのでしょうか?
辛い目にあったときに、もう二度と同じことを繰り返すまいと心に決めるのに、どうして気が付くと同じような目にあってしまうのでしょうか?
Aさんはなぜ、わざわざジョーカーを引きにいくのでしょうか?
何事も仕組みを理解することが、問題に対処するための第1歩になりますから、まずは原作を繰り返そうとする心の仕掛けを明らかにする必要があります。
ここで先取りして、その答えを示しておくと、「モヤモヤをスッキリさせようとしすぎるから」となります。
そう、スッキリしようとするから、原作ドラマはリメイクされてしまうのです。
「え?スッキリしちゃいけないの!?」と慌てふためいてしまうかもしれませんが、少々お待ちください。
詳しい説明は次の章から行います。
謎はもう一つあります。
そうやって繰り返されているのはいかなる物語なのでしょうか?
つまり、生きづらい人たちが何度もリメイクしてしまう原作マンガとは一体何か?
Aさんは神経質な女性との間で、何を繰り返していたのでしょうか?
この問いは生きづらさの問題に取り組む私たちにとってとても重要です。
なぜなら自分を傷つけ、生きづらさを生み出してしまう物語がどのようなものかを理解することで、物語を違った結末へと向かわせることが可能になるからです。
そして、ここに「ひそかに自分が嫌い」が深く絡み合ってくるのですが、それはこの本の後半で詳しく説明しようと思います(CMの多いテレビ番組みたいですみません)。
さて、問題はハッキリしてきました。
なぜ私たちは原作マンガをリメイクしてしまうのか?
そして、そのリメイクされる原作マンガとは一体何か?
この二つの謎を解き明かし、生きづらい自分を変えていくための道筋を見出す。
それが本書でなされることです。
準備運動はこれで終わりです。中身に入っていきましょう。
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と、ここまで書いてみて、文体が何かおかしい気がして、ボツにしたのでした。
最後まで、お読みいただきありがとうございました!