2017年12月31日日曜日

生きづらさの心理学④-人生はリメイクドラマ


ボツ原稿リサイクルの最終回です。
ちょっと長いのですが、お読みいただければ幸いです。

生きづらさの心理学①―モヤモヤとは何か

生きづらさの心理学②―物語はモヤモヤから始まる

生きづらさの心理学③―急性モヤモヤと慢性モヤモヤ

以下のように、第1章を書いては消して、気づけば1年間が過ぎたのでした。

それでは皆様、本年大変お世話になりました。良いお年をお迎えください。




人生はリメイクドラマ
 
モヤモヤ発生装置を見る

ここまで、生きづらさとは何かを追ってきました。

 そして、慢性モヤモヤを生み出すモヤモヤ発生装置にまでたどり着きました。

 ここが本丸です。忍者のように、さらに奥まで忍び込んでみましょう。



 モヤモヤ発生装置。

 まるでフワワワワ―と白い霧を吐き出す加湿器みたいな響きです。

 だけど、実際のモヤモヤ発生装置は、もちろん加湿器とはちょっと違います

 当たり前のことですが、心の中にあるものは心の外にある机やコップと違ってかたちをもちません(難しい言葉で言うならば「心に実体はない」)

 でも、私たちは事実モヤモヤしているわけですから、モヤモヤを生み出すなんらかのものが心の中に存在しているのも確かでしょう。

 それじゃあ、モヤモヤ発生装置って具体的にはいったい何を指すのでしょうか?



 実はモヤモヤ発生装置を特定することは、私の仕事にとって非常に重要です。

 カウンセリングを進めていくうえで、クライエントのモヤモヤ発生装置がどんなものなのかをある程度把握しておくことは、これ以上なく役にたつことだからです。

 だから、私のカウンセリングルームでは、カウンセリングを本格的に始める前に、モヤモヤ発生装置をある程度解明するための時間を作っています。



 何をするのかというと、数回にわたって (大体1か月くらい)、クライエントさんのこれまでの人生を一緒に振り返るのです。

 どういう家庭で生まれて、どういう人間関係の中で育ち、そしてここまでどうやって生きてきたのか。そういうそれぞれの方の歴史を、時間をかけてかなり詳しく伺います。


 
すると、不思議なことがわかります。

生きづらさを抱えた方々が、繰り返し繰り返し同じような辛い状況に陥ってきたことがわかるのです。

私たちカウンセラーは、この繰り返しからモヤモヤ発生装置を把握していきます。



Aさんが繰り返していること

 私たちの人生で繰り返されていることをよく見てみると、モヤモヤ発生装置が垣間見える。

 ここはこの本にとって、ものすごく大事な所です。

そこで、わかりやすく説明するために、具体例をあげてみます(とはいえ、守秘義務がありますので、いくつかの事例を組み合わせた架空の例です、念のため)



 30代女性のAさんは看護師でした。彼女がカウンセリングを訪れたのは、職場の上司である女医さんとうまくいかなくて、とてもモヤモヤしていたからでした。

 その上司はとても神経質で、Aさんのやることなすことにいちいち反応し、文句をつけてくるとのことでした。

 実際、上司の言動はちょっとやりすぎに思えましたから、私はひどい上司だなと思い、自分でも同じ状況に置かれたら、参ってしまうだろうなと思いました。

 だけど、まだカウンセリングは最初の段階でしたから、結論を出すのは避け、慎重に話を聞いていきました。
 
Aさんの過去を振り返っていくと、興味深いことがわかりました。



実はAさんは、以前に勤めていた病院でも、同じように神経質な先輩看護師とうまくいかなくてモヤモヤしていました。

そのときも、その先輩看護師は「なんでまたこんな人と出会ってしまうんだ!」と思ってしまうようなひどい人でしたから、結局Aさんは今の職場に転職することになりました(そうやって、新しい神経質な上司に出会ったのです)



さらに話をお聞きしていくと、Aさんが神経質な目上の女性との間で難しい関係に陥りやすいことがはっきりしてきました。

専門学校のときには指導者との間で、高校時代の部活では顧問の先生との間で、Aさんは苦しんでいました。

よくも毎回そんなひどい人と出会うものだなと思いますが、彼女は実際に出会ってしまいます。

まるでジョーカーだけを抜き続けるババ抜きをしているかのようです。

というか、彼女は誰がジョーカーなのかが直観的にわかっていて、そしてあえてそのジョーカーと深い関係になりにいっているようですらあったのです。



 この繰り返される悲劇の原点には、母親がいました。

 Aさんは幼いころから母親との関係に苦しんでいたのです。

 母親はAさんが男の子と仲良くすることにひどく神経質でした。

まだ幼稚園生であったAさんが男の子と遊んでいる姿を見ると機嫌が悪くなりました。

そして、彼女が小学生になると日記を買い与えて、母親は夜な夜なそれを覗いて、何かあると遠回しに注意を与えていたのです。

 もちろんAさんはそれが窮屈で窮屈で本当に嫌でした。

だけど、日記の場所を隠してしまうと、母親がひどく不安になっているのも知っていましたから、あえて見つけやすいところに日記を置いてあげていたのです。

そうやって、窮屈な関係は維持されていました。



 これがAさんの人生で繰り返されていたことです。

 こうして聞いてみると、Aさんのモヤモヤ発生装置がおぼろげながら見えてはきませんか?

 神経質な女性との窮屈な関係。これが彼女を苦しめていました。

 同じような物語が、Aさんの人生では繰り返されて、彼女を慢性的にモヤモヤさせていたのです。

 そう、それはまるでリメイクドラマのようです。



人生はリメイクドラマ

カウンセリングルームでは、こういう話が満ち溢れています。

 いや、それは普通の人でも、よくある話ではないでしょうか?

 つまり、あなたの人生でも、同じような出来事、同じような人間関係が繰り返されてはいないでしょうか?



 たとえば、これまでお付き合いをしたことのある恋人のことを思い返してみてください(甘酸っぱい気持ちになる人と、苦い気持ちになる人といそうですね)

付き合っているうちに、大体同じような不満を持つようになり、同じように難しい関係になり、同じような別れ方を繰り返してはこなかったでしょうか?

 同じように傷つき、同じように相手を傷つけてはいないでしょうか?

 そう、恋愛関係には、心の癖や弱点が如実に現れますから、そこでは繰り返しが起こりやすい。



 だから、リメイクドラマです。

 繰り返し繰り返しドラマ化される原作ってありますよね(「花より男子」とか「白い巨塔」とか)

 毎回、役者は違います。そのときどきで、違った人が登場人物になります。

あるいは、舞台設定まで違うことがあります(原作マンガは学園物だったのに、なぜか警察の話としてドラマ化されるみたいに)

 だけど、それらのドラマのあらすじは大体同じで、結末も基本的には同じです。



 そうです、私たちの人生でも、同じ物語がかたちだけ変えて、何度も上演されているのです。

 苦しい人間関係が相手役を変えながら何度もリメイクされます。嫌な出来事が舞台を変えて繰り返されます。

 そうやって、私たちはいつも同じように傷つくことになります。

結末が同じだからです。

 こうして、私たちは慢性的にモヤモヤし、「生きづらい」
と感じます。


 
 心の中のモヤモヤ発生機は、加湿機みたいにプシューっとモヤモヤを吐き出すようなものではありません。

そうではなくて、モヤモヤ発生装置とは、繰り返しリメイクされる原作マンガのことでした。

原作がリメイクされる果てに、私たちはいつも同じように傷ついてしまう。そうやって慢性モヤモヤが発生し続ける。



二つの謎を解き明かそう
 生きづらさは、同じような辛い物語が、望んでもいないのにリメイクされてしまうことによって生じる。

 だから、私たちは傷つき続けていて、慢性的にモヤモヤしている。

これがこの章で、皆さんにお伝えしたかったことです。



いかがでしょうか?

 自分を苦しめるような物語を何度もリメイクしているだなんて、心ってほんとうに不思議です(自滅しているようなものです)

 だけど、逆に言うと、ここから生きづらい自分を変えるための道筋も見えてきます。

 そう、いつもの原作マンガをリメイクすることをやめられたなら、生きづらさを変化させることができそうだからです。



 だけど、そのためには、解かなくてはいけない謎があります。

 しかも、二つあります。



なぜ私たちは同じ物語を繰り返してしまうのか。

これが一つ目の謎です。

 モヤモヤ発生装置は、どのようにして私たちの人生を原作マンガのリメイク版にしてしまうのでしょうか?

辛い目にあったときに、もう二度と同じことを繰り返すまいと心に決めるのに、どうして気が付くと同じような目にあってしまうのでしょうか?

Aさんはなぜ、わざわざジョーカーを引きにいくのでしょうか?

 何事も仕組みを理解することが、問題に対処するための第1歩になりますから、まずは原作を繰り返そうとする心の仕掛けを明らかにする必要があります。



 ここで先取りして、その答えを示しておくと、「モヤモヤをスッキリさせようとしすぎるから」となります。

 そう、スッキリしようとするから、原作ドラマはリメイクされてしまうのです。

「え?スッキリしちゃいけないの!?」と慌てふためいてしまうかもしれませんが、少々お待ちください。

詳しい説明は次の章から行います。



 謎はもう一つあります。

そうやって繰り返されているのはいかなる物語なのでしょうか?

つまり、生きづらい人たちが何度もリメイクしてしまう原作マンガとは一体何か?

Aさんは神経質な女性との間で、何を繰り返していたのでしょうか?



この問いは生きづらさの問題に取り組む私たちにとってとても重要です。

なぜなら自分を傷つけ、生きづらさを生み出してしまう物語がどのようなものかを理解することで、物語を違った結末へと向かわせることが可能になるからです。

そして、ここに「ひそかに自分が嫌い」が深く絡み合ってくるのですが、それはこの本の後半で詳しく説明しようと思います(CMの多いテレビ番組みたいですみません)



さて、問題はハッキリしてきました。

なぜ私たちは原作マンガをリメイクしてしまうのか?

そして、そのリメイクされる原作マンガとは一体何か?
          
この二つの謎を解き明かし、生きづらい自分を変えていくための道筋を見出す。

それが本書でなされることです。

準備運動はこれで終わりです。中身に入っていきましょう。


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と、ここまで書いてみて、文体が何かおかしい気がして、ボツにしたのでした。

最後まで、お読みいただきありがとうございました!




2017年12月28日木曜日

生きづらさの心理学③―急性モヤモヤと慢性モヤモヤ


今回は、モヤモヤには二種類あるという話し。



モヤモヤは不思議と消えていく

最初に少しだけ復習しておきましょう。

モヤモヤは生き方と環境の不一致による傷つきから発生する。

だからこそ、モヤモヤはただ辛いだけじゃなくて、人生を変化させるための原動力にもなる。

以上が、ここまで書いてきたモヤモヤのメカニズムでした。



ここから得られる重要な学びは、人生が変化するならば、当然モヤモヤは消えていくということです。

生き方と環境がある程度調和して、傷つきが減じていくからです。



そういうモヤモヤの消失は、ほとんどの場合、ゆっくりと起こります。

逆に言うと、劇的にモヤモヤが消えるというのはちょっと危ういことです(高額商品ほど、「劇的!」と言いますよね)

だって、生き方も環境も基本的にゆっくりとしか変化しないものじゃないですか。

だから、大体のところ、モヤモヤは「気づけば」なくなっているものです。



皆さんも「あのときはあんなにモヤモヤしてたのに、最近そうでもないな」と感じることってありませんか?

そういうとき、私たちは不思議な気持ちになります。何が変わったのか、なぜ変わったのかよくわからないからです。




小さな変化×時間=大きな変化


実際、カウンセリングをしていると、「なぜかわからないけど、でも、最近調子がいい」という話をよく聞きます。

クライエントさんはゆっくりと起こるご自身の小さな変化に気づきにくいんです。

でも、カウンセラーの立場からだと、ご本人よりは、少しだけ、その変化が見えやすいものです(すぐそばにいて、かつ外から見ることができるからかもしれません)



彼女は以前より少しだけ人に頼れるようになっています。

彼が何かを決めるときに出てきていた不安は少しだけ減じています。

あるいは、彼女を囲む環境は、ほんのちょっとだけ以前より寛容になっています。

そして、周囲の人はちょっとだけ彼のことを理解するようになっていたりします。



変化は小さく起こります。そしてそれは本当に貴重なものです。

私たちは苦しくなると、楽になりたいから、ついつい革命的な大変化を望んでしまいます。

だけど、私たち自身も、環境も、大きく変化することは本当に稀です。

というのも、現状って、それなりに必然性があって作り上げられたものだからです。自分自身についても、世の中も、簡単に動かせるようなものじゃない。



ですから、私たちの人生で起きる変化のほとんどが、ごくごく小さなつつましいものです。

だけど、小さな変化が起きて、そこに時間が作用することで、人生は確かに変わっていきます。

「小さな変化×時間=大きな変化」となるからです。

 だから、カウンセリングは時間がかかります。より正確に言うと、時間を味方につけて、時間の力を使えるのがよいカウンセラーだと、私は思います。

 パンを作るのに似ています。イースト菌を入れるまでは職人がやるにしても、パンをふんわりとふくらませるのは時間の仕事です。

時間が癒す。カウンセラーをしていると、心底そう思います。



さて、そうやって、生き方と環境の不一致が微調整されていきます。

すると、モヤモヤは煙のように少しずつ薄らいでいく。

そして、気づけば楽になっている。人生は新しい局面に入っている。

普通のモヤモヤは、このようにして発生して、そして消えていきます。



だけど、生きづらい人の場合は少し違います。

そこにあるのは、「慢性的」なモヤモヤだからです。

ようやく本題にたどり着きそうです。



慢性モヤモヤ


しつこいのは重々承知なのですが、もう一度だけ繰り返させてください。



生きづらさとは、慢性的にモヤモヤしてしまうことである。



「慢性的」。ここがポイントです。

そう、モヤモヤには、「急性」モヤモヤと「慢性」モヤモヤの二つがあるのです。

ここまで書いてきた通り、急性モヤモヤとは人生のある時期に現れ、そして生き方と環境が微調整されると消えていくものです。

だけど、慢性モヤモヤは違います。

それは強弱の波はあるにせよ、私たちから離れることなく、どこまでも付きまとってくるタイプのモヤモヤです。

慢性モヤモヤは、種火のようにいつも心のどこかで燃えていて、ときどき大炎上して、私たちを困らせる。

いったんは消火したと思うのだけど、実は心の奥でひそかに燃え続けていて、私たちを慢性的にモヤモヤモヤモヤとさせる。



皆さんの人生にも、何度か転機や変化があったはずです。

進学したり、退学したり、卒業したり。

就職したり、転職したり、退職したり。

結婚したり、離婚したり、再婚したり。

そして、それらに伴い、少し成長したり、しなかったり。



そう、湧いてくるモヤモヤをなんとかするために、皆さん、必死にもがいてきたかと思います。

環境を変えることも、生き方を変えることもやってみて、その結果、人生が新しい局面を迎えたということが何度かあったのではないかと思います。



人生は確かに変化した。3年前の自分とはやっぱり違う。

だけど、モヤモヤが消えない。結局自分はいつもモヤモヤしている。

ここです、ここに慢性モヤモヤがあります。

そして、それこそが、私たちに生きづらさを感じさせる当のものなのです。


モヤモヤ発生装置

繰り返しましょう。

 いくら環境を変えても、いくら生き方を変えても、なぜか最後はモヤモヤしてしまう。

 いろいろなことが変わっていったのに、なぜかいつものモヤモヤが消えない。

 だから、生きづらい。



 なぜでしょうか?

 生き方と環境の不一致がモヤモヤの原因のはずなのに、なぜ慢性モヤモヤはそれらを調整しても消えてくれないのでしょうか?

 こんなに頑張っているのに、なぜ慢性モヤモヤはいつまでも、私たちのところを離れようとしないのでしょうか?

 消えたと思っても、すぐに湧いてくる慢性モヤモヤ。

 それはどこから来るのでしょうか?

 まるで心の中にモヤモヤ発生装置があるかのようではないでしょうか?




 そうです。このモヤモヤ発生装置こそが問題です。

2017年12月24日日曜日

生きづらさの心理学②―物語はモヤモヤから始まる


年末なのでボツ原稿リサイクルをしています。
前回「生きづらさの心理学①-モヤモヤとは何か」の続きです。

モヤモヤによって、人は生き方を調整しようとするという話です。
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心を病むのは人生の一コマ

いわゆる、「心を病む」という言葉が使われるのは、そういうときです。

生き方と環境の不一致が起きているときに、私たちはモヤモヤします。

そして、そういうことが積み重なっていくと、ちょっとずつ自分に変化が起きてきます。

イライラしたり、落ち込んで力が出てこなくなったりします。悲しくて、胸が痛くなることだってあります。

思い通りにいかないことが積み重なる時期に、私たちは心を病みます。

心にかかる負担が許容量を超えて、うまく心が動かないということが起こるのです。

しかし、「心を病む」ということは、特殊な人に起きる、特殊なことではありません。

私たちみんなが、人生で何度か「心を病む」ことを経験します。

それは生きている限り、ほとんどの人が直面することになる人生の一コマです。

だって、人生は思い通りにいかないんですから。

そもそも、生きるというのは、基本的には失い続けていくプロセスです。

ガッカリするのが、僕らの人生の基本設定です。

もちろん、ときどき何かを手に入れることだってありますけど、こうあってほしいと思ったことが、そうはならないことに何度も直面して、そのたびにそれを受け入れていくことが繰り返されるのが人生です。

ほら、今この瞬間にも、時間は流れて、私たちの体は若さを失っていっていますよね(なんてことだ!)

だから、私たちはモヤモヤしますし、みんなときどき心を病む。

だけど、「モヤモヤする」って、実は悪いことばかりではありません。

これが、この本でお伝えしたい、とても大切なメッセージの一つです。

そう、心を病む時期というのは、実は人生の転機の時期であり、成長の時期でもあるのです。

物語はモヤモヤから始まる


皆さん、ご自身が心を病んだ時期のことを思い出してみてください(一つや二つありますよね?)

それはモヤモヤする辛い時期であったと同時に、皆さんにとって、転機や成長の時期ではなかったでしょうか。

その時期に、少し大人になったり、見える世界が変わったり、人間関係が変わったりはしなかったでしょうか。

なぜか?

なぜ心を病むことと、人生の転機・成長が関係しているのか?

それは、生き方と環境がズレているとき、私たちはなんとかそれを調整しようとするからです。

人間は基本的に保守的で、変わらないことを好む生き物です(だから、コンビニにいくと、大体同じ味のおにぎりを選んでしまいます)

だけど、辛いときには、私たちは変わろうとします。

モヤモヤするとき、私たちはそれが辛いから、なんとか生き方と環境のズレを修正しようとするのです。

そのとき、環境の方を変えれば(たとえば、職場を変えたり、引っ越しをしたり、あるいは家族から離れることもあります)、それは人生の転機になります。

逆に、生き方を変えようとするならば(人との付き合い方を変えたり、新しい目標を見つけたり)、それを人は成長とか成熟と呼びます。

たいていは、その両方が少しずつ起こります。


ですから、小説を読んだり、テレビドラマや映画を観てみたりすると、物語の最初の段階で、主人公はたいていモヤモヤしています。

「なんかうまくいってねえなぁ」という感じがあって、そこから主人公は冒険に飛び出していったり、試練を潜り抜けたりして、成長を遂げるわけです。

 ほら、「千と千尋の神隠し」の冒頭は、親の引越しのせいで主人公の千尋ちゃんがモヤモヤしているシーンでしたよね。

 そして、終わりのシーンでは、千尋ちゃんはちょっと大人になっていました。

 そうです。モヤモヤは人を変える。物語はモヤモヤから始まる。

生きづらさとは?
 
 ここまで、モヤモヤが生き方と環境の不一致による傷つきであること、そしてそれが誰の人生にも訪れるありふれたものであり、モヤモヤから転機や成長がもたらされることを書いてきました。

 このことが、生きづらさを理解するための最初のステップです。

 だけど、もしかしたら、この著者は綺麗ごとを書く人だなと思われたかもしれません。

 生きづらさから人間が成長するんだなんて、まるでジムトレーナーが「筋肉痛は筋肉が作られている証拠だ」と言っているみたいなもんだと思われたかもしれません。

 誤解をさせたらすみません。

 私の言いたいことは、ちょっと違います。

「モヤモヤ=生きづらさ」ではないからです。

最初に私は以下のように書きましたよね。

 生きづらさとは、慢性的にモヤモヤしてしまうことである。

多くの人が人生のある時期にモヤモヤするのは確かです。

だけど、生きづらさは、ただモヤモヤしていることを指すのではなく、慢性的にモヤモヤすることを指します。

そう、「慢性的」。ここがもうひとつのポイントです。


もう少しお付き合いください。次の章で詳しく説明したいと思います。

2017年12月23日土曜日

生きづらさの心理学①―モヤモヤとは何か


文体がかみ合わず、ボツになった原稿を以下にリサイクルしています。
生きづらさとは何かについて、少しでもお役に立てば幸いです。


1-1.モヤモヤとは何か?


 生きづらさとは何か。
 これがこの本の問いです。
そう問うことによって、生きづらさの根底で「ひそかに自分が嫌い」が深く絡み合っていることを明らかにしていこうと思っています。

だけど、突然結論に向かうのではなく、
準備運動から始めましょう。
読者の皆さまと歩調を合わせたいところですから、
まずは「生きづらさ」とは具体的にはどんなものなのかを示しておこうと思います。
それについて、私は次の通りに考えます。

 生きづらさとは、慢性的にモヤモヤしてしまうことである。

ここでのポイントは「慢性的」と「モヤモヤ」の二つです。
大事なところですから、一つずつ確認していきましょう。
まずは「モヤモヤする」から始めてみたいと思います。


「モヤモヤする」は便利な言葉

実はこれ、カウンセリングで最頻出の言葉のひとつです。
 なぜかというと、「モヤモヤする」ってとても便利な言葉だからです。
 その理由は二つあります。

一つ目の理由は、「モヤモヤ」という言葉には、
様々な気持ちを自由に詰め込むことができる、という点にあります。

ほら、「モヤモヤする」と言うだけで、怒りも、嫌悪感も、悲しみも、傷つきも、不安も、すべて表現することができますよね。

そう、この言葉を使うことで、今自分が感じているなんとなく嫌な感じを他者とシェアすることができるのです。
 
これはとても大切なことです。しんどいときに、そのことを誰かに伝えることができると、そのしんどさは少しやわらぐからです。
「モヤモヤする」はそれを可能にしてくれる便利な言葉だと言えます。

 もう一つの理由は、「モヤモヤする」という言葉が、自分が怒っているのか、嫌悪感を持っているのか、悲しいのか、傷ついているのか、不安なのかをハッキリさせないままにしてくれる、というところにあります。

 確かに、しんどいときに人に「しんどい」と言えると楽になります。だけど、どういう風にしんどいかをきちんと説明するのって、実はかなりしんどいことです。

 まず、自分の感じていることを、人に伝わるように説明するのはとてつもなくエネルギーが必要です。それがうまくできなくて、私たちはしばしば追い詰められます。

そして、なにより「何が辛いのか」を自分でよくよく見てみること自体が辛いことです。混乱した状態で、自分を混乱させた人や事件を思い浮かべるって、本当に大変なことです。

だから、「ひどいことをされて傷ついている」とはっきりさせるより、「モヤモヤする」という曖昧な言葉でウヤムヤにしておく方が安全なのです。

「モヤモヤする」って便利な言葉です。

この言葉は、苦しさを表現するとともに、その苦しさが何であるのかを曖昧にしてくれます。

そうやって、私たちは自分を守りながら、人と繋がることができるのです。

だけど、実はこの便利さには罠も潜んでいます。ただ、それについてはこの本の後半で詳しく説明するとして、話を前に進めましょう。

じゃあ、モヤモヤとは何か?
 ここが問題です。

生き方と環境の不一致
モヤモヤはどこからやってくるのでしょうか?
この点について、私は次のように考えます。

モヤモヤするのは、私たちの生き方と実際に生きている環境にズレがあるときである。

 そう、「生き方と環境の不一致」がモヤモヤを作りだす。
 重要なことなので、少し詳しく説明したいと思います。

 人生は思い通りになりません。本当に思い通りになりません。

 私は30年ちょっと生きてきただけですけど、このことだけは自信をもって「確かなことだ!」と言うことができます(大きい声で叫びたくなります)

 受験をしたら失敗し、就活でも何度も悲しい思いをします。いざ就職しても、やりたい仕事とは別の仕事を任されて、やりたかった仕事をしてみても思っているほどには結果が出せません。

同僚や友達からはよく誤解されるし、家族や恋人は自分のことをわかってくれません。

大吉を当てたくておみくじに挑むも、引くのは末吉ばかりだし、駅のホームに着くと電車は行ってしまったところです。
 
 もちろん、ごくごく稀にラッキーなことだって起こりますけど、大体のところ思い通りにいかないことに囲まれているのが、私たちの人生ですよね。

「思い通りにいかない」とは、私たちが心の中で抱いていることが、現実とズレをきたしているということを意味しています。

 現実は心が思い描くようにならない。
 環境は私たちの求めるものを与えてくれない。
 
 そういうことが人生には何度も起こって、その都度、私たちは傷つきます。小さく傷つくこともあれば、深く傷つくときもあります。
 
 もちろん、世界が自分を中心に回っていないことくらい、みんな分かっています。

 だけど、それでも、「思い通りにいかない」とき、私たちは小さく傷ついてしまう。
 わかっちゃいるけど、心は言うことをきかない。それが心というものの厄介な本性です。

 ここです。ここから、モヤモヤが発生します。

 ホームに着くと電車が行ってしまったところだったというとき、私たちの生き方と環境はどこかズレています。
 もう少し早く家を出るか、駅まで走ればいいのでしょうが、それはそれでそうもいかない事情があるものです(たとえば、子供を保育園に送らなきゃいけないとか)

 同じように、やりたい仕事をやりたいようにできればいいのですが、そうもいかない事情というものがあって、それはしばしば自分ではどうしようもない経緯でそうなっています。

 生き方と環境がズレる。だから、日々小さく傷つく。そして、その小さな傷つきがモヤモヤの種になる。

《続く》

年末のご挨拶


今年もそろそろ終わりです。
白金高輪カウンセリングルームも12月23日から1月4日までお休みをいただきます。
皆様方に応援いただきましたおかげで、この一年を無事に終えることができることに感謝申し上げます。

さて、この一年は私にとって臨床に励んだ一年であったと同時に、
ボツ原稿を書き続けた一年でした。
一般向けの本の依頼があり挑戦してみたのはよかったのですが、
なにぶん初めての試みであったのもあり、
膨大なボツ原稿が生産されることになりました。

どういう文体・口調で文章を書けばいいのか、いまだ試行錯誤しているところです。

とはいえ、内容としては、「生きづらさとは何か」を心理学的に、そして平易に解説してみようというものでしたので、
ボツではあるのですが、少しは人々の参考になるかもしれないと思い、
その一部を年末年始の間に公開してみようと思いました(もったいない精神でもあります)。

本ブログで順にアップしてみたいと思いますので、皆様方よろしければご覧いただければ幸いです。

それではこの一年、大変お世話になりましたこと、深く感謝申し上げます。
また来年もどうかよろしくお願いいたします。

2017年12月4日月曜日

朝日カルチャーセンター講座「親子関係をサバイブする 生きづらさの心理学」


もう年末なので、来年のお知らせです。
2018年2月7日19時より、朝日カルチャー新宿教室で「親子関係をサバイブする―生きづらさの心理学」という講座を行います。

内容は以下の通り

週刊誌の報道などを見ていると「今、家族は悲鳴を上げている」と感じます。そしてそれは私たち自身のことでもあります。
 現代とは過去よりも未来を見る時代です。過ぎたことではなく、これから起こることを計算し、リスクを回避し、プロジェクトを成功させなければいけません。そのとき、「家族」についてじっくりと考えることは難しい。しかし、過去の家族は今の私たちの中に生きていますし、それは現在の家族で同じことを反復させ続けます。そして、それが現代の生きづらさを生んでいます。
 私は臨床心理士として「フツーの家庭で育ちました」とおっしゃるクライエントとカウンセリングを重ねてきましたが、そこには見えにくい、小さいトラウマが息づいていることを感じてきました。
 本講座では現代の家族の難しさ、そして私たちが育ってきた家族の難しさについて、特に親子関係に焦点を当てて話をしたいと思います。

https://www.asahiculture.jp/shinjuku/course/6f3752d4-930a-f164-a8a2-59bb762ff770

雑誌「精神療法」への寄稿


雑誌「精神療法」の「てらぺいあ」に、「壕の冷たい床とカウンセリング室の冷たい壁」というエッセイを寄稿しました。
沖縄の精神科で働きながら、社会と心理療法は深く結びついていると思ったことについて書きました。

「戦争は歴史の記憶などではなく、養育を通じて、後の世代へと手渡されていく」

http://kongoshuppan.co.jp/dm/5223.html


自動代替テキストはありません。

2017年11月1日水曜日

ふしぎの国のデイケア 2回目

「精神看護」に連載している「ふしぎの国のデイケア」の2回目が掲載されました。

2回目のタイトルは「素人と専門家―博士のデイケア送迎学」という内容で、デイケアの専門家であるとはどういうことかがテーマです。

デイケアでは臨床心理士免許よりも、普通自動車免許の方がずっと利用価値が高くて、僕も10人乗りハイエースでメンバーさんの送迎をしていました。

そしてそうやって働いていると、やっている仕事は高卒の事務の女の子とほぼ一緒なんですね(そして、彼女たちの方が運転がうまい!)

では、専門家ってなんなんだ?というのを論じたものです。
よろしければご覧ください。





2017年9月11日月曜日

現代臨床心理学入門

朝日カルチャーセンター新宿教室で、
「現代臨床心理学入門―新たな生きづらさをサバイブする」
という講座を全三回で行います。

世間一般の臨床心理学のイメージは、おそらく30年前から止まっています。
 グローバリゼーションが進むことで、社会は大きな変化を遂げている最中ですが、そこに生じる新たな生きづらさに応じて臨床心理学も進化を続けてきました。
 そこではフロイトが掲げた健康さの定義である「働くことと愛すること」はこれまでとは違った形を取るようになっています。
 今、私たちはどのような生きづらさを抱えていて、サバイブするために何が必要とされているのでしょうか。
 現代の臨床心理学が考えていることについて、お話ししたいと思います。

下記から申し込むことができます。
3回通しだと少しお得で、各1回ずつでも申し込みができます。

https://www.asahiculture.jp/shinjuku/course/94b9eea3-3d08-76f4-b894-5959e86fa3a9

10月4日  新たな生きづらさとは何か―現代と臨床心理学
11月1日 自分とは何か―働くための臨床心理学
12月6日 大切な人とは何か―愛するための臨床心理学



ふしぎの国のデイケア

医学書院から出ている「精神看護」という雑誌に、
「ふしぎの国のデイケア」という連載を始めました。

精神科デイケアは私の臨床経験の根底にあるものですが、
それらについて書いたものです。
よろしければご覧いただければ幸いです。



2017年7月12日水曜日

日本のありふれた心理療法の書評

精神神経学雑誌に拙著「日本のありふれた心理療法」の書評が出ております。
よろしければご覧ください。

https://journal.jspn.or.jp/jspn/openpdf/1190060454.pdf

 白金高輪カウンセリングルームのHPはこちら
 http://stc-room.jp/